2021.1.17(日)想いが溢れてしまった夜に


ライブの日。曇り、昨日よりも随分寒い。


緊急事態宣言の影響か、道はいつになく空いていた。東京を出て、どうってことのない景色を見るだけでも、久しぶりの旅気分に心がおどる。




あっという間に会場の千葉・MT Millysに到着。今回は初の無観客配信。


去年は月一くらいのペースで配信をしたけど、振り返ればほとんどが弾き語りで、2月の原田郁子ちゃんとの「新生音楽(シンライブ)」以外は、ドラムやベースと一緒にセッションしたのはMIYAの録音でスタジオに入った日一度きりだった。高校以降の人生で、こんなに長い間バンドから遠ざかってしまったことなんて、一度もなかった。




それでもコツコツ、発声や弾き語りの練習をしてきた。甲斐あって歌やギターは磨かれた。でもそれは、ずっと自分を客観視するような気持ちで歌い続けてきたということでもある。ふと気づけば、去年はずっと座って歌ってた。運動不足もあって足腰が弱ってきたので、1ヶ月くらい前から立って歌う練習を続けていた。


金曜のリハ、およそ1年半ぶりの宮川くんとのセッション。今まで数え切れないくらい一緒に舞台に立ってきた仲間、グルーヴはすぐに元に戻る....かと思いきや、そもそもどのくらいの音量で、温度感で演奏したらいいのかを、体が忘れているのだった。失われた合奏の感覚を取り戻すための4時間だった。


毎日日記を書いてはいるが、ここは公共の場なので、書いてない、書けないこともたくさんある。去年後半以降、生きるということを考えざるを得ない出来事が立て続けにあった。そういう世代になったということでもあるし、コロナで生活が変わってしまった影響もあるのかもしれない。特に、昨日聞いた知らせは、まだ受け止め切れなかった。


とにかく、平常心で行くと心を決めた。セットリストも前日に少し変えた。入念に準備した後も、何か忘れ物があるような気がして仕方がない。しばらくツアーに出ていないのでライブに対する勘が鈍っているのだ。その嫌な予感は的中してしまうのだが。。。。




リハーサルが始まった。今日はやることが多い。一つずつ、着実にチェック。


毎月のように配信があるので、できるだけ内容を変えていきたい。選曲はもちろん、今回は鍵盤とコンピュータのコーナーも挟んでみたり、ルーパーを使ったインストも入れてみたり、ちょっと欲張った。一人で機械と格闘し続ける図はどうしても実験室的になって気持ちが外に向かないけど、同じマシンを使っても二人だとセッションになるのが不思議。




順調と思われたリハの終盤、アコギのピックアップ(マイク)の不調に気づく。ベースレスの編成では一番大事な低音を担う、6弦の音量が極端に小さい。多用するので、これは厳しい。


こんな時のために用意してあるスペアのギターを取り出す。ところがチューニングしたら1弦が切れた。予備の弦を探すが、、、見つからない。近所に弦を扱っているような楽器屋はないらしい。本番直前なので、遠方まで買いに行く時間もない。


覚悟を決めて、6弦が小さいままこのギターで乗り切ることにした。ヨーロッパや中南米のツアーで幾多の困難を乗り切ってきた経験を思えば、このくらいのことはトラブルのうちに入らないぜ、と言いかせる。演奏で手なづける。自分を信じる。




感染防止に念を入れて、二人なのに楽屋も二手に分かれて過ごす。

なつかしい本番前の緊張感。違うのは、お客さんがいないことだけ。


時折ギターが思い通りに鳴らなかったのはかなりもどかしかったが、きっと誰にもわからないくらいにうまく飼いならせたと思う。あっという間に1時間半が過ぎ、もっと長い時間のようにも感じた。思いの丈は、選曲と歌に込めた。この時期、中止せず無事終えられたことだけで十分嬉しかった。ハイタッチの代わりに、宮川くんと握りこぶしをぶつけた。グータッチ?誰か名前をつけてくれ。




帰り道も驚くくらい空いていた。湾岸線から東京に入ると、一面に煌めく路面灯とビルの明かりが非現実的に美しくて、運転中で写真が撮れないのが残念だった。今まで30年以上暮らしてきて、東京の景色を美しいと思ったことなんてあっただろうか。


目に映る全てが人工物だった。こんなとてつもない街をつくってしまった人間の業と、この街を輝かせるためのエネルギーに想いを馳せる。レインボーブリッジを上り切ったところから視界に収まりきらない360度のパノラマの夜景に囲まれる。30年前にJFKからニューヨークへ向かったときに、初めてみた摩天楼の夜景にとても感動したことを思い出しながらも、2021年の東京はあのときの景色を遥かに凌駕していて、怖いほど非現実的な景色に見えた。コロナを経て、自分の中の何かが変わったことに気づいた。


1cmほど雪が積もれば大混乱してしまう危ういバランスの上にこの街は立ち、化け物みたいに巨大なくせに、目に見えない微細なウイルスたちにおびえている。「スローダウンしろ」と命令されているみたいに。

それでも、ここにいる。


高速を降りた。暖房が効き過ぎたので車の窓を開けた。排気ガスの臭いがした。

音楽があって、よかった。ライブを続けてきて、よかった。

空を見上げた。



*配信ライブのアーカイブは、23日まで残っています。 https://eplus.jp/sf/detail/3358810001


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