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2021.10.4(月)「親愛なる君へ」 ヒロくんのこと

台湾のチェン・ヨウジェ(鄭有傑)監督 5年ぶりの映画「親愛なる君へ」を観てきた。

都内の上映期間中は忙しくて見逃してしまい、本厚木までの小旅行。



僕とナタリーワイズのメンバーは、監督のことを親しみを込めてニックネームで「ヒロくん」と呼ぶ。


ヒロくんとの出会いはちょうど20年前。当時の事務所の社長が台湾を訪れた際、通訳のバイトだったヒロくんと知り合った。23〜4歳でまだたしか大学院生だったと思う。日本語に堪能で聡明な彼に興味を持った社長が彼自身について話を聴いてみると、俳優であり、自ら監督する映画を撮影中、音楽をつけてくれる人を探しているという。社長の紹介で紹介されたヒロくんは、僕より一回りも年下とは思えないほど落ち着いて大人びていて、すぐに親友になった。試しに製作中の映像と僕の書いたばかりの曲を合わせてみると、まるで準備していたかのようにマッチしていた。



そんな自然な流れで僕とナタリーワイズは、ヒロくんの2作目の映画「シーディンの夏」のサウンドトラックを手掛けることになった。自分にとって初めて映画音楽を手掛けた作品となった。翌2002年、「シーディンの夏」は台湾のアカデミー賞「金馬映画祭」短編部門で最優秀賞を受賞、日本でも話題となり、何度か自主上映された。 *2002年・第15回東京国際映画祭ティーチインの書き起こし



そんな縁で、ナタリーワイズの初期2作のMVはヒロくんに監督してもらった。フィルムの質感と台湾ロケの景色が相まって、単なるミュージックビデオとは違う、いつの時代なのか分からないタイムレスな作品になっている。


「No Signal」のバンドのシーンは日本で、それ以外のシーンは監督が台湾で撮影したもの。




「雨~春の嵐~OMG~美しい夜」はオール台湾ロケ。




現地では台湾インディーズ映画シーンのヒロくんの仲間たちを紹介してもらった。友達同士でお互いの制作を裏方として手伝ったり、それぞれの監督作品に出演したりしているらしい。台湾は自主映画製作に対して国からの文化的支援があるらしく、若い製作者にもチャンスがあるとのこと。日本にはない豊かさを感じた。


映画を作りながら港の防波堤のすぐ横でカフェをやっている友達の店にも遊びに行ったり、祭りのようににぎやかで、どこまでも続く屋台の並ぶ商店街をぶらぶら散歩したりした。あの頃は今みたいに写真を撮りまくる習慣がなかったので、そんな台湾の思い出も記憶の中にしか残っていない。


ナタリーワイズの2ndアルバムのタイトルが「film, silence」に決まったのは誰の発案だったか?もう忘れてしまったけれど、そんなヒロくんとの交流や「シーディンの夏」のサントラを手掛けた影響は大きかったかもしれない。

12曲目「Time Wave Zero」のエンディングの語りは、ヒロくんの声だ。台湾で録音した声をMDで郵送してもらった。まだネットで音声ファイルはやりとりしづらい時代。最近のライブでも、リズムトラックと一緒にヒロくんの声が流れている。




ヒロくんと最後に会ったのは2009年に「ヤンヤン(陽陽)」を東京国際映画祭で観たとき。以来連絡も取らないまま、月日は流れてしまった。




今年、久しぶりの日本での新作の上映があると聞き、17年ぶりに復活したナタリーワイズの配信ライブを観てもらおうと思ったのだが、メールが宛先不明で戻ってきてしまった。主要SNSのアカウントを調べても何もヒットしない。必死で検索するうち、ジャーナリストの野嶋剛さんの存在と連絡先を知る。野島さんは2016年にチェン監督作品「太陽の子」のために、監督と直接交渉して個人で上映権を獲得し、日本初上映にこぎ着けたという。



野島さんに事情を説明すると、快く今のヒロくんの連絡先を教えてくださった(ありがとうございます)。ヒロくんからもすぐ返事がきて、気負いのない文体から声が聴こえてくるようだった。メールには、こう記されていた。


「20年ってあっというまだな〜と実感してしまいました。(いまだにプラネタリウムでのライブが印象深く胸に残っています。)ところで、不思議と三日前の日曜日に、高雄の映画図書館で、当時16ミリで撮った映画をデジタルリマスターで上映するイベントがあって、「シーディンの夏」を久しぶりにスクリーンで上映しました。なのでメールを頂いた時、なるほど繋がってるな〜と思わずにはいられませんでした。」


そう、本当に通じ合えた友達とは何年ブランクがあっても一瞬で埋まってしまう。そんな瞬間を人生で何度も経験できた僕は幸せものだ。



「親愛なる君へ」はチェン・ヨウジェ作品らしいアイデンティティと人間関係を丁寧に描く物語。主演のモー・ズーイーは第57回台湾アカデミー賞(金馬奨)と第22回台北映画奨で最優秀主演男優賞を受賞。おばあちゃん役のチェン・シューファンは、第57回台湾アカデミー賞で最優秀助演女優賞を獲得したとのこと。控えめな音楽と余白の多い映像、「シーディンの夏」とオーバーラップするカットがいくつもあって既視感を感じる。終盤までかけてじっくりと秘められた謎と込められた感情を解きほぐしていく完成度の高い構成に、ヒロくんの20年間の経験を感じさせた。エンディングの歌は、泣けたな。いつかまた、台湾にも行きたいし、縁あればヒロくんの映画のサントラもやってみたい。


年内いっぱい各地で上映されるようなので、気になった方はぜひ。



そして、ナタリーワイズの17年ぶりの有観客ライブが来週開催されます。

10/17(日)東京八王子・禅東院 普門殿

10/23(土)神戸・海辺のポルカ






*有料記事ですが、デビュー30周年時に書いた自伝的エッセイにもヒロくんとナタリーワイズのことを書きました https://note.com/takano_hiroshi/n/na2bd1abbe9b0?magazine_key=mc84b61d33fb1



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